「商人」かそれとも「職人」か。私たちの工場とのつきあいかたとは?
2025/2/15

靴下工場と一緒に仕事をするようになって19年になりました。
私たちにとって靴下に関わる全ての方々は「カスタマー」(顧客)になります。
製造工場も同様の位置づけです。
いかに工場の特性を活かし気持ちよく仕事をしてもらうか考えることも私たちの仕事の一つです。
「職人」と「商人」
私が長年付き合ってきた工場経営者の気質は、大きく分けると「職人」と「商人」の二つに分類できます。
「職人」は品質に強いこだわりを持ち、ものづくりに情熱を注ぐタイプ。一方「商人」は営業活動を重視し、利益を生み出すことに長けたタイプです。
どちらのタイプも工場経営において重要な役割を果たします。
ただどうしてもどちらかのタイプに偏りがちです。また靴下の場合小中規模の工場や同族経営が多いためどうしても経営者自身の考え方に固執しがちになります。
私たちは、工場内部の人間ではありませんが、工場との信頼関係が深くなることで経営者と深く向き合う機会が生まれます。
第三者的立場から方向づけのお手伝いをすることはできます。
職人タイプの工場とつきあう際の傾向と対策
職人タイプの経営者は、商売よりも自らが納得できる製品をつくれるかどうかに重点を置く傾向があります。
自らが納得するまでとことんつきつめるので、サンプルの修正回数についても比較的寛容です。
ただし職人としてのプライドが高いため、わからないことがあれば教えを乞う感覚でつきあう必要があります。
新規参入に耐えうる競争力に優れた靴下を開発するには、「何度もつくり込む忍耐力」や「細部へのこだわり」が欠かせません。
商人タイプの工場とつきあう際の傾向と対策
商人タイプの工場経営者はできる限り大きなオーダーを受注して利益を出すことに重点を置きます。
効率を重視するため、短期的な視点での回収を考える傾向があります。
例えば新商品の開発に取り組む際、サンプルの修正回数が増えると早めの方向転換を検討します。
修正回数がかさむほど費用がかかりますし、開発にかける時間が長くなる分回収も遅くなります。
私たちが商人タイプの工場とつきあう際、開発半ばでの頓挫を避けるため工場の力量80%程度で製造可能な製品のみを依頼します。
同時に難しく考えて途中で投げ出すことがないように、徹底してわかりやすい仕様書を製作します。
糸や工法など商人タイプの工場背景でどんな対応が可能か把握し提案することで、商品の付加価値を高くする取り組みを行います。
「職人」と「商人」アンバランスさの魅力を活かす
2021年私が長年靴下について教えを受けた恩人とも言える職人が経営する工場が閉鎖しました。
コロナの影響で一気にオーダーが減少し資金がショートしやもなく閉鎖することになりました。
社長は人と会うよりも深夜遅くまで一人で編機に向かい合うことを好む生粋の職人でした。
人に言われるのでなく、お金を儲けようと思うのではなく、靴下を作ることにのみ向き合ってきました。
経営者としては異色なアンバランスさが魅力がある靴下を生み出す原動力となっていました。
その証拠に社長のところで靴下の製造を依頼した多くのブランドが売り上げ伸ばしていきました。
せめてあと一年維持できていたら閉鎖は免れていたかもしれません。
一工場の経営をどうにかしようと考えること自体、私の力ではおごがましいことだと思います。しかしながら、私たちにできることを、一歩ずつ取り組んでいきたいと考えています。
自社ブランドを成功に導くための私たちの靴下づくりの考え方についてこちらでまとめております。
合同会社ブリングハピネス代表。
中国内モンゴルで中国語とモンゴル語を学んだのち、東京のぬいぐるみ雑貨メーカーで9年間生産管理の仕事をする。2014年に起業し、台湾靴下工場と一緒に「靴下ブランドを立ち上げたい」デザイナー、クリエイター、ブランドに向けた「伴走型でじっくり取り組む靴下製造サービス」を立ち上げる。台湾工場の強みは細かなデザインの再現とはき心地の良さを両立させる技術力。起業してからの7年間で、工場と二人三脚で数多くのブランドの靴下製造を手がける。バーチャルで靴下サンプル製作が可能な島精機製作所デザインシステムを使用。
この記事を書いた人

岩村 耕平